昨年、クリスマスの前の週に15時に用事が終わり、老舗の蕎麦屋に寄ってみた。前日の夜に急に蕎麦が食べたくなり、ネットでお店を検索して見つけたのが室町砂場だ。お店は通し営業で落ち着けるところを探した。
最近は、ダイエットというよりは健康のためにジムで運動したとき以外は昼は食事を採らない。運動したときもたいていおにぎり一個とみそ汁一杯だけだ。出かけたときはお昼を採らず、午後3時半から6時までの間に早めの夕食を取ることが多い。
血圧対策で始めた習慣で最初の1ヵ月半で10㎏近く体重が落ちたが、3か月目以降は8kg減で推移している。28%近くあった体脂肪率も一時は18%程度まで下がったが、現在は20%前後だ。おかげで血圧も血液検査の結果も良好だ。
減量し始めたときは昼食を食べなかったが、筋トレの影響か、血液検査で総蛋白が基準値を下回っていることに気が付いて運動した日だけおにぎりを食べるようになった。夜にはほぼ毎日、お酒と塩をかけてしょうがと青ねぎを載せて電子レンジでチンしただけのむね肉をスライスして食べている。お陰で最近になって総蛋白は基準値内まで戻った。
しかし、残念ながら筋肉量はほとんど変わっていない。今も筋トレを週2回、短時間行っている。筋肉を増やすためではなく、筋トレをすると血行が良くなることが分かったからだ。歩いているときに足裏が地面を踏んでいる感覚がはっきり分かるようになり、階段を上がっても息切れしなくなった。
減量に成功したのは心拍数を意識した早歩きとお昼の食事制限のお陰だが、有酸素運動だけだと筋肉が落ちることを知って筋トレを始めたのだが、十分なたんぱく質を採らないと反って筋肉が落ちるということに気が付いた。
有酸素運動で肺活量は大きく増えたが、体力の維持には適度な筋トレも必要だ。だから、現在は有酸素運動で落ちる筋肉を適度な筋トレとタンパク質の補充で維持することに努めている。
こういう前置きを書いているのは日中からお酒を飲んでいる言い訳のためでもある。午後遅い時間からお酒を飲みながら食事をするしあわせと後ろめたさのバランスを取るためにはどうしても言い訳を書かずにいられない。お許しを!
さて、蕎麦屋さんに到着したのは3時半頃だった。銀座線で三越前で下車した。昼下がりの街をそぞろ歩いてお店の前に立った。入り口に腰のあたりまでの暖簾が下がり、洒落た雰囲気を醸し出している。
暖簾をくぐって店の中に入るとひんやりとした空気が漂い、とても落ち着ける。お昼のお客が一巡し、店内は閑散としていたが、反ってそれが昼下がりの上品な閑静を形成していた。奥にはガラス越しに小さな坪庭が見えた。
すいていたおかげでその坪庭の前の小テーブルに案内してくれた。思わずついていると心の中でつぶやいていた。正直、初めてのお店だったので来るまでは不安もあったが、一遍にそうした気持ちが吹っ飛んでしまった。
落ち着いた空間でお酒をちびりちびりやりながら、美味しいつまみとお蕎麦が食べられる所を探していたが、まさにそうしたお店だった。そして、まさかお店の一番いい席をあてがってくれるとはゆめゆめ思いもしなかった。
安くて美味しい疲れしていたので、こうしたお店が残っていることに素直に感謝したい。お金を掛ければ豪華な内装のお店で美味しいものはいくらでも食べられるかもしれないが、私は豪華や華美なものが好きでない。シンプルでそれでいて深みがあるようなお店がいい。
今は後継者不足で老舗がどんどん消えているのが何かさみしい。金儲けは強欲な人たちに任せておけばいい。そうしたお店がいくら儲けようが、潰れようがどうでもいいと最近思っている。規模の拡大で上場することだけが目的のような商売が永続するとはとても思えない。儲けられるときに儲ければいいのだろう。ブームが去る前に店を売却してさよならというのは情けない。
高い賃金だけしか興味のない人はいらない。無論、生活できないような低賃金では困るが、世の中ほどほどの方がしあわせなのではないだろうか。お金に振り回されて働いても疲れるだけなのではないだろうか。結局、見栄だけの末路に何があるのだろうか。
お酒は予定通り熱燗を頼んだ。お酒の強くない家内もわずかばかり付き合ってくれたが、家内には代わりに店で一番高い「種込み天ぷらそば」で埋め合わせてもらうことにした。私は「大もり」を酒の後に頼んだ。
そばを食べる前につまみを頼んだ。最初に玉子焼と焼き海苔を頼んだ。海苔は一枚を焼いて八つ切りにしたものが蓋つきの器に入って出て来た。こどもの頃は焼き海苔は海苔を焼いて食べるのが当たり前だったことを思い出した。
他に焼き鳥、そば味噌、あさり(佃煮)、風呂吹きかぶらをお願いした。熱燗を飲みながら横目で坪庭を眺めていただくつまみがとても美味しくて至福のひと時だった。
焼き鳥は串に刺してないのが反って新鮮だった。あさりは上品な味でおかわりをしてしまった。そば味噌はそばがきを赤味噌と砂糖で煉り合せたもののようだった。熱燗にとても合っていた。
お蕎麦を食べる頃には金曜日ということもあってか、5時を過ぎたばかりなのに店内の席はほぼ埋まっていた。帰りに揚げ玉をもらった。家で丼に少量のご飯をよそってその上に揚げ玉とたっぷりの小ねぎのみじん切りを載せてしょう油を少々垂らして食べたら、至福の味だった。
最近、ここまで満足した食事は思い出せない。また、近々、行ってみたい。 おしまい