国民の大半は、憲法改正を望んでいない。だから、自民党が憲法改正を参院選の争点にしようとしないことは、政治に少しでも関心を持っていればわかるはず。
👉改憲、強まる懸念=「選挙で問わず不公正」-被爆者は不戦願う【16参院選】
昨年、安保法案は、世論調査で国民の8割がその内容を理解できないと答えていたのに支持率に関係なく、決めるときは決めるという論理で強行採決された。
そして、その後は安保法制の理解を深めるための努力をする代わりに支持率を上げるために急に同一労働同一賃金や待機児童問題にフォーカスした政策を掲げて安保法制の争点化を避け、現在、参院選の争点がアベノミクスという「この道」の継続だと訴える安倍総理のTVコマーシャルが流れている。
「条文をどのように変えるかを決めるのは選挙ではなく国民投票だ」って本当?
憲法改正の内容を示さないまま、参院選後に国会の憲法審査会で論議すると安倍首相は主張している。現在、自民党が作成した改憲草案は谷垣氏が総理のときに作られたものであり、改憲内容は憲法審査会で決めるという詭弁が行われている。
ちなみに昨年の憲法審査会の名簿には、徴兵制に関する発言で物議を引き起こして自民党を離党した武藤貴也議員と不倫問題で議員辞職した宮崎謙介氏が入っていた。そして、報道弾圧発言問題で処分された?木原稔議員の名前もある。自民党は委員をどんな基準で人選しているのだろうか。
自民党の憲法改正草案をまとめた憲法改正推進本部の最高顧問に安倍総理と麻生副総理、そして森元首相が名前を連ねており、安倍総理が主導して草案を作成したことは明らかだろう。憲法改正草案の問題点については過去の記事で何度も採り上げたのでここでは触れない。
👉何か忘れていませんか(記事の最後に憲法改憲草案の解説と関係者名簿あり)
👉憲法本、日本の岐路で関心高く 書店活況(2016年7月5日 東京新聞)~中身知らずに是非語れない
結局、憲法審査会での議論は、安保法案の審議と同じガス抜きにすぎない。最後は、責任野党として対案を出せという去年と同じ手法で強行採決に持ち込むつもりだろう。また、決めるときは決めるということになる。
👉三原じゅん子氏「神武天皇は実在の人物」と認める 池上彰氏が質問(参院選)~やはり日本の国旗の色。神武天皇の建国のそのときからの歴史というもの、全てを受け入れた憲法を作りたい」
👉稲田朋美氏、憲法改正は「草案は出してある」の一点張り 池上彰氏の質問に言葉を濁す
👉安倍首相が目指す目標、ヒトラーのナチスドイツとこんなにも酷似していた!
安倍政権にこうした手法を許しているのも結局、特定機密保護法案や安保法案の強行採決後に国民の関心が薄れてしまうという成功体験が元になっているからだろう。国民自身が刹那的になっているのかもしれない。先のことはわからないからとりあえず今が何とかなればいいという人が周りに増えているように思う。
もし、自民党が参院で改憲に必要な三分の二以上の勢力を確保すれば、憲法改正のための国民投票を実施することになるかもしれない。そうなれば、選挙以上に多額の税金がつぎ込まれることになるだろう。
👉憲法改正、そのための手続きは? 【参院選】~国民投票では一度に複数の条文改正を問うことができ、国民は条文ごとに賛否を判断する。国民投票で過半数の賛成得られれば承認される。
国民の多くが安倍政権の進める憲法改正を望んでいないのに無駄な税金が投入され、そして国民投票は国民を分断することになるだろう。昨年の大阪都構想の住民投票は住民の対立を先鋭化した。そして、今回のイギリスのEU離脱か残留かを決める国民投票も国民に深刻な対立を生じさせた。
大阪都構想の住民投票とイギリスの国民投票は誰が望んだのか
大阪都構想の住民投票とイギリスの今回の国民投票の類似性が指摘されているが、二つの投票の大きな違いは、大阪都構想は住民の意思ではなく、為政者側の都合で行われたものであるのに対してイギリスの国民投票は国民の不満に対応するためのものだったことだ。
投票結果が同じように僅差だったことを理由に投票の再実施を求める声があることや若者と老人の世代間対立を煽る報道に類似点はある。しかし、負けたらやり直せと言うのはアンフェアなように思う。
👉英政府、国民投票やり直し求める請願を正式却下 署名400万人超
また、投票後にEUの意味をネットで検索する人が多くいたことからEUの離脱の意味を分からずに投票した国民がいるという報道もある。しかし、これは残留を望む側の世論誘導のように思う。
どんな投票でも投票の意味を理解しないまま投票する人々がいる。それは賛成派にも反対派にも同じようにいるはずだ。
自分たちの経済的利益だけを優先する人々には、圧倒的にEU残留の方にメリットがあり、合理的な判断だと思えるのだろう。だから離脱の判断は許せない判断であり、ロンドンは独立してEUに残留するべきだという主張が生まれるのだろう。
経済的なメリットとデメリットだけを羅列すれば、おそらく残留の方に分があるだろうし、世界的にも支持される判断だろう。だから投票前には内政干渉や恫喝するような報道が世界を駆け巡っていた。
大阪都構想も投票後に大阪の未来が失われたという主張や投票の結果をシルバー民主主義として非難する声があったが、私は大阪都構想の目的であるとされた二重行政の解消については今でも疑問を感じている。集会に参加した老人が都構想の内容を聞かれても返答できず、橋下氏にパワーがあるから賛成だと答えた報道には呆れていた。
大阪都構想の住民投票から1年以上経過して大阪都構想のその後を報道するマスコミはない。二重行政はその後どうなったのだろうか。イギリスの実際のEU離脱も2年後であり、イギリスの経済規模からして世界経済に与える影響は限定的だという声もある。
「中小企業の活動に影響が出ないよう万全を期す」といウソ
今回のEU離脱について安倍『首相は経済への影響に関し、「中長期的に表れてくる可能性がある」と指摘。「中小企業の活動に影響が出ないよう万全を期す」と述べた。』と報道されている。
しかし、一番大きな影響を受けるのは大企業だろう。中小企業を強調したのは、批判のある大企業優先策に対する批判をかわすためだろうか。
今、議論すべきは急膨張する社会保障費対策
ちょっと話が逸れたが、憲法改正の国民投票は、税金の無駄であるだけでなく、国民を分断する可能性がある。少なくとも、今、憲法改正を緊急に論議する必要性はまったくないように思う。緊急にやらなくてはいけないのは憲法改正の論議ではなく、急膨張する社会保障費をどうするかということだ。
👉参院選でわれわれが選んだもの~圧倒的に多くの有権者が景気対策や年金、社会保障問題などの経済問題を優先課題にあげていたという。
憲法改正のために社会保障費や財政健全化の論議を先送りするのは、本末転倒だろう。いつまでも経っても出てこない成長戦略より法人税の見直し、天下りや高すぎる公務員の給与水準の是正、消費税の戻し税の廃止等々を優先的に議論するべきだ。
小泉親子はどう考えているのだろうか
私は、小泉親子が憲法改正についてどう思っているのか強い関心を持っていた。今回の参院選の応援演説で進次郎氏は民進党岡田代表の地元三重で「民進党は安倍(晋三)政権の憲法改正には反対と。首相が安倍さんでなくなったら賛成なのか。どうなんですかと批判のボルテージを上げた。」と産経新聞が報じているので安倍政権の憲法改正(=自民党の憲法改正草案)に進次郎氏は賛成なのだろう。
『小泉(進次郎)氏は3万円給付にかかる予算額が3600億円を超えることに触れ「本当に、整合性の取れた政策なのか」などと批判。他の議員も来年夏の参院選への影響を懸念し「子育て給付金をカットして(その財源を)高齢者に回していると誤解される」「財政への配慮なきバラマキとみられる」と反発した。』と昨年12月に産経新聞が報じていたが、その後どうなったのかマスコミはまったく報道していない。
わずかに日経新聞が、社説の中で「低所得高齢者に3万円の臨時給付金を配りつつある。」と触れている程度だ。進次郎氏も安倍政権の政策になんでも賛成ではなかったはずだ。政策の内容には触れず、野党を攻撃する姿にはちょっとがっかりした。
進次郎氏もサラリーマン議員の一人にすぎないようだ。サラリーマンは、社内で異論を言う人でも対外的な場では会社批判をしないという保身集団だ。自分の主張を全うしようとする人は会社を辞めるしかない。進次郎氏は自民党を辞めたくないのだろう。
小泉元首相は「小泉純一郎 独白」(常井健一著)の中で憲法改正について「自衛隊を軍隊と言っちゃいけない、陸海空その他の戦力を保持しない。それで自衛隊をどうして認めているのか。とっくに憲法9条を解釈改憲しているから、自衛隊を作れたんでしょう。戦力があるから抑止力なんだ。それ、野党も賛成しているんだからさ。本来憲法9条は、自衛隊を軍と認めて戦力もあると認めて、武力行使はしないと改正するべき。…本質を議論しないで平気なんだよ。素直に憲法読めば自衛隊は違憲ですよ。…」と語っている。
しかし、「本来憲法9条は、自衛隊を軍と認めて戦力もあると認めて、武力行使はしないと改正するべき。」という発言は意味がよく理解できない。安倍総理の目指しているのは、明らかに「武力行使する国防軍」であり、「武力行使はしない自衛隊」ではない。
♦安倍首相 「敵基地攻撃」検討の可能性排除せず~衆院予算委員会で考え示すー安倍晋三首相は14日の衆院予算委員会で、日本が攻撃される前に敵のミサイル発射基地などを破壊する「敵基地攻撃」について、検討する可能性を排除しない考えを示した。
(2017年2月14日 毎日新聞)
安倍総理の掲げる「積極的平和主義」は、武器の使用を前提にしており、施行された安保法制は具体的に武力行使の条項が盛り込まれている。
あるいは「武力行使はしない」という意味が、先制攻撃をしない専守防衛のことを言っているのだろうか。集団的自衛権については、どうなのだろうか。結局、形式論としての憲法改正については賛成しているが、肝心の安保法制に関しては何も語っていない。
そもそも「武力行使はしない」軍隊に意味があるのだろうか。仮に小泉元総理が言うように憲法を改正しても今度は、「武力行使」の意味を巡って論争することになる。
憲法に武力行使について細かく規定することは不可能だから、法律で武力行使の内容を規定することになれば武力行使に歯止めがかからなくなるだろう。時の政権が好きなように法律を変えるリスクがある。
だから憲法の条項を変えるだけで問題が解決する程、単純ではない。現行憲法の戦争の放棄という理念をこれからも守るためにどうしたらいいかということが問われているのだと思う。
憲法改正は手段であって目的にはなり得ない。憲法を改正したら「積極的に」平和が守れるのだろうか。積極的平和主義という言葉は、レトリックにすぎない。
もし、憲法をどうしても改正するというなら武力行使は個別的自衛権を行使する場合に限ると明記するべきではないだろうか。他国から攻撃を受けたときに反撃することに反対する国民は多くないと思う。
安倍政権を操る古色蒼然とした極右勢力
最近、安倍政権を操る組織として内外から「日本会議」が注目されている。「日本会議の研究」(菅野完著)を読んで私が驚いたのは、戦後70年経っても戦前の体制の復活を願望する人々がいることだ。
👉参院選勝利で日本会議会長が「我々は軍隊をつくる」と宣言! 安倍首相からは既に「日本人も血を流す国にする」との答え
本書では彼らの活動を草の根運動の成果と表現している。組織の古色蒼然とした教義の元になっているのが、元祖「生長の家」の経典である「生命の實相」だという。本の中には、自民党政調会長の稲田朋美氏がこの経典を掲げて講演している写真が掲載されており、ちょっと不気味だ。
また、『日本会議が改憲運動のために立ち上げた「美しい日本の憲法をつくる国民の会」のパンフレット』には、昨年、報道弾圧発言をした百田尚樹氏の他に舞の海の顔写真も載っていた。私は、舞の海については、日頃の相撲解説者としての顔しか知らなかったのでちょっとびっくりした。
👉舞の海さん、日本人力士の"甘さ"は「憲法前文のせい」 憲法改正訴える
最近の自民党の幼稚さは日本会議から来ているのかもしれない。自民党の改憲PR冊子「ほのぼの一家の 憲法改正ってなあに?」や若年層に投票を呼びかけるパンフレット「国に届け」は国民を本当にバカにしている。
後者のパンフレットには、若者が若手議員にインタビューするという企画の中で進次郎氏も登場している。正直、進次郎氏がパンフレットの内容に共感しているなら、本当は頭があまり良くないのかもしれないとまで思ってしまった。参加している若者もさくらなのだろうか。
また、『SEALDsなどリベラルな学生主体の運動に対抗するように、いま、各地で「憲法改正支持」「安保法制賛成」などというプラカードを掲げ、「国のために闘う安倍政権を支えよう!」などとコールしながらデモを行う、学生による運動が起こっている。』そうだ。
私も、以前渋谷を行進する若者の姿をNHKのニュースの中で紹介しているのを不思議に思って見ていた記憶がある。デモ行進を組織していた団体は、旧統一教会の2世たちだそうで世論誘導のためなら何でもありのようだ。
👉安倍政権支持を訴える学生団体の正体は「統一教会」だった! 参院選で跋扈する宗教極右のダミー団体、日本会議も…
「小泉純一郎 独白」の文中に『政界引退後、熱に浮かされたように国民運動を展開した元総理に岸信介がいる。「自主憲法制定国民会議」を立ち上げ、フィクサー然として民族団体や宗教右派を束ねて憲法改正を促したが、弟の佐藤栄作や田中角栄ら時の権力者たちには相手にされなかった。』という著者の記述を見つけた。
安倍総理の民族団体や宗教右派とのつながりは、お爺ちゃんから受け継いだのだろうか。母洋子とお爺ちゃんのために晋三お坊ちゃんは頑張っているのかもしれない。だけど、決して頑張れという気にならない。
👉岸信介と安倍晋三ーー2つの類似点(1960年安保と2015年安保①)
後で後悔しても憲法改正は後戻りができない「この道」
海外のテロ事件やアメリカの銃乱射事件の頻発は、結局、銃や兵器をテロリストや犯罪者が簡単に入手できることが最大の原因ではないだろうか。日本の治安がいいのも銃刀法による規制によるところが大きいと思う。
👉ダラス警察、銃撃犯をロボットで爆殺「白人を殺したかった」~同国メディアは、銃撃事件の容疑者が、昨年まで米陸軍予備役だった…と報道した。
アメリカであれだけ銃乱射事件が発生しても銃が規制できないのは、アメリカでは憲法で「銃を持つ権利」が保障されているからだ。「超訳 日本国憲法」(池上彰著)によれば、アメリカの元々の憲法の条項には存在しなかった「銃を持つ権利」は修正第二条で追加されたものだという。
「この条項は、州兵が武器を持つ権利を認めているにすぎないとの解釈もありましたが、2008年、連邦最高裁判所は、この条項が、個人が武器を保有する権利を認めているとの判断をしました。」と池上氏は解説している。
一度、憲法を改正して武力行使が合憲化されれば、それが過ちだったと後で後悔してもアメリカの銃規制のように利害拮抗する問題(武器や兵器で利益を上げる企業が出てくれば、その恩恵を手放せない人々が必ず存在する)が顕在化し、原発と同じように後戻りできなくなるだろう。
アメリカは、たとえ痛ましい銃の乱射事件が繰り返されても問題が解決できないという憲法修正のジレンマに陥っている。日本は原発を本心で安心だと考えている人はいないはずだが、自分の利害のために問題から目を反らす人々がいる。
安易に憲法を改正したときにそれが間違いだったとしても容易に後戻りができない「この道」だということを国民は十分考える必要がある。間違っていたら修正すればいいという簡単な問題ではない。とても国会議員に白紙委任できるわけがない。役人や議員は憲法から規制される側だから彼らの都合で憲法を改正されたくない。 この項おしまい
♦トルコ:公務員拘束・処分3万3000人 政治的追放(2016年7月19日 毎日新聞)~政府は容疑や根拠を明確にしておらず、敵対勢力弱体化のための「政治的追放」との批判が広がっている。…一方、エルドアン大統領は18日、米CNNのインタビューで、拘束した数千人の軍人らが「死刑」となる可能性もありうるとして、死刑制度復活の可能性を示唆した。
♦憲法変えるかの議論 “深まっていない”が3分の2~国の政治に優先的に取り組んでほしいことを複数回答で聞いたところ、「社会保障や福祉政策」が62%、「景気・雇用対策」が55%、「少子化対策や教育政策」が37%などとなり、「憲法改正」は6%で、9つの選択肢の中で最も低くなりました。男女別や年代別に見ても、「憲法改正」を優先課題に挙げた人はすべての層で1割に満たず、最も低くなっています。(2017年4月30日 NHK世論調査)
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