2冊の本
2冊の本を読んだ。1冊は以前、私の「トピックス」のコーナーで紹介した書籍だ。トピックスの記事は、私の備忘録でもある。だから、紹介した本を既に読んでいる訳ではなく、これから読んでみたい本を取り上げている。少し、時間が経ってからも興味が失われていない本を購入して読んでいる。今回、読んだのは、「町内会は義務ですか?」と「絶望の裁判所」の2冊だ。この2冊を読んで考えたのは、日本の「組織」というもののあり方(あるいは世界共通の問題かもしれないが)だ。前者は、町内会という任意団体の問題で、後者は、日本の最も重要な機関である裁判所の問題だ。次元のまるで異なる組織の問題であるにもかかわらず、共通の構造問題があるように思う。
ヒエラルキー
「絶望の裁判所」では、頻繁にヒエラルキーという聞き慣れない難しい用語が出てくる。要は、「ピラミッド型の上下組織」のことだ(余談だが、私は、ヒエラルキーという言葉を普段使ったことがなく、言葉からイメージが伝わってこない)。また、「町内会は義務ですか?」では、町内会と自治会という言葉が、統一されることなく、同じ意味で使われている。私は、自治会という言葉の方が馴染みがあるので、ここから先は自治会という言い方をする。裁判所の構成員は、裁判官であり、自治会の構成員は、住民である。裁判官は、憲法と法律で身分保障され、立法、行政、司法の三権の中で独立した、中立の立場にある人たちのはずだ。正確には、はずだと思っていた。
管理組合と自治会の違い
「町内会は義務ですか?」の筆者は、残念ながら、マンションの管理組合と自治会の違いについて認識違いがあるようだ。筆者が、マンションの住戸の所有者だけで構成されているのが管理組合だと説明しているところはいいのだが、「ただ、それ以外の点はよく似ています。マンションの維持管理全体を話し合うことができますから…」という件はちょっと違う。無論、マンションの賃借人が、維持管理について意見を言うこと自体は、問題ないが、維持管理についての権利義務は、賃借人には法律上、一切ないという認識が抜けているように思う。
「管理組合を自治会(町内会)と同じように扱っているマンションもあります。」という記述に至っては、単なる誤解に過ぎない。もし、現実にあるとしたら、それは、マンションの住人が全員、所有者の場合だけだ。しかし、その場合でも、管理組合と自治会は、別組織であり、マンションの憲法である管理規約は、法律に基づいて必ず作成されなければならないものだ。これに対して任意団体である自治会の規約については、極論を言えば、作らなくて何ら法律的に問題がないし、法律や公序良俗に反しない限り、どんな規約を作成しても基本的に自由だ。
マンションの管理組合は、マンションという共有財産を管理するためのもので、組合員は法律上の権利義務がある。「前者(管理組合)は共用部分の維持管理…という財産にかかわるシビアなことを扱い、夏祭りや地域とのつきあいを自治会に担わせるという役割分担をしています。」という説明は、誤解レベルではなく、完全に間違った記述だ。だから、筆者のその後の記述にちょっと不安を感じてしまった。
筆者の書く文章は、平易で分かり易く、巻末には、引用・参考文献も付いており、よく調べていることが分かるだけに残念だ。しかし、管理組合の記述に誤りがあるから非難している訳ではなく、本書の主張には全面的に賛成だ。だから、私が勝手に筆者の代わりにエキスキューズしただけだ。読んだ方が、こうした記述から本書の主張に疑問を持たないで欲しいというのが真意だ。
校区の理不尽な運営
自治体は、校区ごとに自治会の上部組織として協議会を一般的に組織しているようだ。協議会は地域の自治会長を構成員とする自治会連合会やPTA、社会福祉協議会等で構成されている。通常、こうした組織には、自治体から補助金が出されて運営されている。
自治会長に祭り上げられた筆者は、自分の所属する自治会だけでなく、こうした協議会の他の団体の行事への参加を強いられたりしたために、個人の生活が破壊されてしまうような理不尽さに憤りを感じて従来の自治会を休会して「会費なし、義務なし、手当なしの完全ボランティア」の「ミニマム町内会」を立ち上げたという。行事は、コミュニティの形成に役立つ夏祭りと餅つきだけと割り切ったそうだ。そして、それ以上のことは、やりたい人がいるならその提案者がリーダーとなってやればいいと考えたという。実際の運営方法について興味のある方は、是非この本を読んで欲しい。
自治会は任意加入
『(新しいミニマム町会は)好きでやっているのだから、(従来型の自治会の場合のように)やっていない人たちのことを恨みがましく言うことはなくなるはずです。「地域のための義務だ」と肩肘をはるから、町内会の仕事に参加しない人を「フリーライダー(ただ乗り)」のように見てしまうのです。』と筆者は語っている。
自治会が任意加入という現在の根拠は、2005年の最高裁の「町内会は強制加入団体ではなく、脱退は自由」という趣旨の判決だが、PTAについても法律上の根拠がないという見解(大塚玲子「PTAをけっこうラクにたのしくする本」を紹介している。最近、PTAの役員を決める舞台裏について書いている記事があったことを思い出した。
→加藤浩次がPTA活動に持論「一生懸命やっている人がいるのに不要と言えない」~なお、視聴者投票の結果、「必要」が11696票、「不要」が19089票となった。
→PTAで仕事辞める母親も…負担減らすには「ブラック活動」の断捨離を
→ママたちウンザリ…。すったもんだの“PTA役員決め”珍道記
→小中学校が多様な働き方のある社会にできること―菊池桃子氏の発言を支持して~政府の「一億総活躍国民会議」において、委員の菊池桃子氏が3月25日に「PTA活動はもともと任意活動なのに、すべての者が参加するような雰囲気作りがされている」と述べ、PTA活動がワーキングマザーの負担になっているとの指摘をしたとの報道があり、共感が広がっているという。
→小栗旬「町内会費2400円拒否騒動」とは一体何だったのか?
→エリマネとは NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント~交流とにぎわいのあふれるヒューマンなまちを目指して~
→PTAを上回る強制力?「町内会」のナゾ ここにも善意による強制が!
→PTA最大のタブー!"強制加入"という闇 大体の問題は、ここに原因がある
→怪奇!PTAの仕事はなぜ減らないのか? ベルマークからママさんバレーまで仕事山積
→実際に「PTA」から「PTO」に改革した嶺町小学校のエピソード
👉「PTA、入退会は自由」 加入めぐる訴訟が和解~和解条項には、入退会自由であることをPTA側が保護者に周知するよう努めることなどが盛り込まれた。
👉「PTAは必要なの?」問いかけに割れる意見 「平和なときほど無意味」だけど、なければ教育格差に繋がる懸念も
👉「#PTAやめたの私だ」はPTAへの最後通牒~「次年度より非会員となります」
👉PTAは“ブラック組織” 保護者が不満爆発「もう二度と関わりたくない」
👉PTA、恐怖の電話で始まった「涙の1年間」 「ザ・長時間労働」の縮図
👉PTA、恐怖の電話で始まった「涙の1年間」 「ザ・長時間労働」の縮図
正直、余程の変人か、暇人でもなければ、自治会に積極的に加入している人はほとんどいないように思う。そして、自治会への加入が任意であることをきちんと根拠まで認識している人がどれだけいるだろうか。ほとんどの人は周囲が入っているから入っているのが実情だと思う。他人と違うことを避ける日本人の気質が関係しているように思う。
同調行動
そして仲間はずれにされたくないという意識と不利益を被らないための同調行動が村八分やいじめの傍観(最も卑劣な行為だと思う。)の温床になっているように思う。空気を読むのも同じ行為だろう。他人の気配を感じ取るおもてなしの裏返しなのかもしれない。空気を読めないと言う表現は、他人に同調行為を強要するだけでなく、他人を排除する行動につながっているように思う。もし、本当に場にふさわしくない行為があれば、そのことを率直に当事者に伝えるべきだ。空気を読めないという発言は、ほとんどの場合、本人のいないところで言う陰口ではないだろうか。私は、世の中で一番嫌いなのが、媚びを売る人と裏表のある人だ。
自治会は、行政の下請けですか?
筆者は、自治会は、行政の下請けですか?という問いかけもしている。そして、トップダウンではなく、ボトムアップで自治会のあり方を考えることを提案している。この本を読んで現在の自治会について、行政→自治会連合会→自治会という(現在のところは、上下関係や強制力はないが、)「ピラミッド型の組織」を再認識した。最近、法律を変えれば何でもできるというような動きに危惧を感じることが多く、組織が「ピラミッド型の上下組織」に変質する可能性はゼロではないように思う。対話の苦手な行政は住民に直接向かい合わずに、自治会連合会を通じて業務を自治会に下ろす形で行政の意思を住民に伝えているように感じた。本日はここまで。 つづく
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