嫌な時代を嫌な時代だと認識できる耐性を身につける
最近、池上彰さんと佐藤優さんの共著「新・戦争論ー僕らのインテリジェンスの磨き方」という本を読んだ。タイトルは戦争論だが、本書は、副題のインテリジェンスの方に重点が置かれているようだ。本の中で紛争地域ごとに二人の情報分析が対談形式で読者に提供されており、イデオロギー対立ではなく、「過去の栄光よ、もう一度」的な、領土争いを本質とする新帝国主義が現在、世界各地で展開されていると分析している。こうした状況について「嫌な時代を嫌な時代だと認識できる耐性を身につける必要がある」と佐藤さんは読者に訴えている。池上さんは、「歴史を改めて勉強することが必要」だとし、「歴史を読むと『ああ、歴史は繰り返す』と思います。」と語っている。
インテリジェンスの意味
私は、この本を読む前は、副題のインテリジェンスの磨き方というタイトルが、知性を磨くという意味程度に考えていた。しかし、本文の中で「インテリジェンス機関をつくって」という記述があり、インテリジェンスの意味が、「諜報」すなわち情報収集や情報分析の意味で使われていることが分かる。だから副題をかみ砕くと、僕らの情報収集と情報分析の技術の磨き方ということになる。実際に本書の第8章には「池上・佐藤流情報術5ヶ条」が載っている。本書の目的は「そういうリテラシー(情報術)は一般の社会人にも求められる能力」だと言いたいのだと思う。
二人の情報術
しかし、特別な情報ルートを持たない素人がプロみたいな情報術を身につけることができる訳がないだろうという一般人の反論を予想して書かれたのがこの第8章のように思う。池上さんならこうした反論に対して「本当にそうでしょうか。私たちの使っている情報術は、実はとてもシンプルなものなのですよ。」とにこにこしながら自分の情報術を分かり易く解説してくれそうだ。
そして、第8章がまさに池上さんと佐藤さんの情報術の解説になっている。「どの国でも、スパイの情報源の九十八パーセントか九十九パーセントは、実は公開情報」だと池上さんは、説明している。「公開情報の基本は、新聞やインターネット」であり、佐藤さんはインターネットの情報は、公式筋のウェブサイトの基礎データを見ることが大切であると指摘している。池上さんも「新聞で言えば、国際面のベタ記事みたいなものですね。」とこれに応じている。そして、池上さんは情報術を高めるためには「複数のニュースソース、新聞なら複数の新聞を見ることです。少なくとも論調のまったく異なる二つの新聞」を読むことが必要だと指摘している。
池上さんは、紙の新聞を毎日10紙を読み、必要なところを破ってクリアファイルに入れて持ち歩いているそうだ。そして関心のある問題があると、その関連記事をすべてファイルに入れているという。池上さんは、毎朝10紙を20分で目を通すというから凄い。やはり、並の凡人にはできない能力を持っている。その理由は、それぞれのニュースの基礎知識があり、いきさつを知っているから見出しを見て情報をアップデートすることができるそうだ。まさに情報術の達人だ。ただし、寝る前に関心のある記事はじっくり読んだり、スクラップするとも語っている。
まず自分の母国語で取ること
元外務省のお役人だった佐藤さんが、情報収集の鉄則として「まず自分の母国語で取ること。次善の策として、母国語で取れないものに関してのみ、自分のできる外国語を使う。母国語と外国語では、情報の収集の効率性と読むときの疲れがまったく違いますから」と発言しているのにビックリする一方で、プロでもそうなのかと変に感心してしまった。そう考えるとどこかの企業が社内の公用語を英語にしたが、随分と業務効率が落ちているのではないだろうか。
佐藤さんはスケジュールからメモまで一冊の大学ノートで済ましていると語っている。池上さんも取材のときに大学ノートを使っているが、スケジュール手帳を別に持っているそうだ。二人の情報術自体は、私とそんなに違いはないように思う(ただし、新聞を10紙も購読する金銭的・空間的余裕は私にはない)が、やはりお二人の情報処理能力は、凡人とは比べようもない程高いようだ。例えて言えば、パソコンとスーパーコンピューターの違いだろうか。
どうしたら戦争に巻き込まれないか
しかし、お二人が最も言いたかったのは、おそらく、自分で情報を収集し、自分なりに情報を読み解くことで周囲で何が起こっているかを理解し、そうした問題にもっと関心を持って欲しいということだろう。そして、どうしたら戦争に巻き込まれないかということを国民一人一人が真剣に考えて欲しいということだろう。と私は、感じた。 おしまい
*新聞各紙10紙を読んでいることを明かし、黒田は仰天。「かなり時間、かかるんちゃいます?」と聞かれた池上は「朝、20分もあれば…」と答え、再び黒田を驚かせていた。
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