東急世田谷線
上限200円バスの記事を書いていて、東京にも全区間を150円で乗れる電車があることを思い出した。それは、「東急世田谷線」だ。東京に2つしかない路面電車の一つで、もう一つは都営荒川線だ。前に沿線の施設に用事があって利用したことがあり、調べてみることにした。
実車
まずは、現地調査のため平日の午後、三軒茶屋に行ってみた。地下の田園都市線の改札を出た地下通路が世田谷線の三軒茶屋駅の改札までつなっがており、地下通路を歩いて行くとキャロットタワーの前に出る。上を見上げると青い空が広がっていた。雨の日は、通路の左側が天井になっているので傘なしで世田谷線の改札まで辿り着ける。
三軒茶屋の駅は、向かって左側の入口が乗車専用の改札になっており、右側は降車客専用の出口となっている。出口には、改札も仕切りもない。世田谷線は、全区間均一制で前払いのため、こうした仕組みが可能だ。三軒茶屋、上町(改札があるのは、三軒茶屋方面のみ)、下高井戸以外の駅は無人駅であり、改札はなく、乗客は、電車に乗るときに運賃を前払いする。
無論、PASMOも使える。三軒茶屋の改札は、料金箱と券売機(定期販売用)があり、切符は発行されない。この他、一日乗車券として「世田谷線散策きっぷ」が販売されており、改札横の料金所で買うことができる。一日乗車券は、改札で提示するか、無人駅では、電車の乗車口で運転手もしくは女性の車掌(後部で乗車するとき)に切符を提示して乗る。
車両
電車は2両編成であり、同じ車両がお尻を連結した形でつながっている。まるで2両編成の巨大な連結バスのようだ。料金箱もシステムも路線バスと同じだ。ただ違うのは、前と後ろに運転席があることだ。これにより、切り替えなしで始発駅と終点駅を折り返えすことができる。車両は、左と右で扉の位置が異なっている。進行方向から見て左側は、前と後ろに扉があり、反対側の右側は、前と真ん中に扉がある。無人駅では、1両目の前か、2両目の後ろの扉から乗り、降車客は、1両目の後ろか、2両目の真ん中の扉から降りることになる。
改札のある駅では、乗車側ホームから電車のどの扉からも乗ることができ、降車客は、反対のホーム側の扉が開いて乗車客が乗って来る前に降りる仕組みになっている。三軒茶屋と下高井戸の駅のホームの天井は、ドーム状になっており、壁には、街灯のような丸い洒落た照明が昼間でも点いており、レトロな雰囲気を醸し出している。
車窓から外を見ていると線路の両側に住宅が建ち並び、電車は住宅の裏手口側を走っているような感じだ。世田谷線は路面電車だが、実際に路面を走ったのは、若林駅手前の環七を横断しているときだけだった。後は、すべて踏み切りがある専用軌道を走っていた。
スローライフの旅と子供の頃の思い出
三軒茶屋から下高井戸まで(5キロ)の乗車時間は17分程なので、平均時速20キロ以下だ。とりわけ、若林駅までの区間が遅かったように思う。駅の停車時間を考えれば、実際の平均時速は、20から30キロくらいだろうか。しかし、スピードはあまり気にならなかった。それよりもガタンゴトンという電車の揺れが懐かしかった。それで、子供の頃を思い出した。
私は、小学生の頃、この世田谷線の前身の玉川線をよく利用していた。ただし、私が利用していたのは、三軒茶屋と渋谷の間の区間だ。もう半世紀も前のことだ。玉川線は玉電とか、じゃり電とか呼ばれていた。私は、池尻の交差点の古畑病院前のホームからよく乗車していた。私の記憶では屋根のないホームが、道路のど真ん中に設置されていた。渋谷まで行くときは、いつも電車の中でポーチのようなショルダーバッグを肩から掛けた車掌さんから往復切符を買って乗っていた。
下高井戸駅で降りて家内と商店街を散策していたら、珍しいものを置いた金物屋があり、ちょっと覗いてみた。しかし、ちょっとのつもりが、予想外にその店に滞在してしまった。本当は復路で途中下車するつもりだったが、タイムアウトとなってしまった。せっかくの一日乗車券が、往復切符となってしまった。しかし、記念乗車券代わりにはなった。この金物屋は「藤山商店」さんだ。医者が使う「ドクター・耳かき」や「口内鏡」、レンズの付いた爪切り、ギンナン割り等々ニッチな珍しい商品が沢山置いてあった。
運行本数が多くてビックリ
世田谷線に乗って一番驚いたのは、運行本数だ。通勤・通学時間帯は1時間に13本もあり、日中でも10本、夜中の零時台でも5本もある。土休日も日中10本の電車が走っているからすごいとしか言いようがない。
1日平均輸送人員
それで過去の輸送人員を調べてみた。1990年度から2013年度までの1日平均輸送人員は、1996年度の47,682人を底に増え続け、東北の震災の前後に少し減少したが、2013年度は、過去最高の56,958人まで回復している。世田谷線には、利便性(運行本数の多さ、他社線との接続の良さ)、利用者の利便性に配慮した合理化されたシステム、沿線の利便施設の充実という街づくりに不可欠な要素が揃っているように思った。鉄道が、街と一体となり、生活の一部として機能している。事業者の街づくりに対する意識の高さを思わずにはいられない。
👉「昭和が薫る世田谷線 おしゃれな街のレトロな電車」~東京都世田谷区の三軒茶屋と下高井戸を結ぶ東急世田谷線。沿線は「おしゃれな街」「住みたい街」などと言われる人気タウンだが、電車はなんともレトロで、良くも悪くも「昭和」の風情が漂っている。心から江戸・東京を愛する人には、このギャップの魅力が分かる。電車と沿線をリポートする。