豊岡市
この間、京丹後市の上限200円バスについて書いたが、最近の新聞記事でお隣の豊岡市でも上限200円バスの社会実験の取組が行われていることを知った。豊岡市は、平成の大合併で2005年に「周辺の城崎郡城崎町・竹野町・日高町、出石郡出石町・但東町と対等合併し、兵庫県で面積が一番大きい市となった」(ウィキペディア)自治体だ。
人口は、やはり減っており、2010年の国勢調査で4.04%減の85,607人になっている。2014年7月1日現在の人口は、合併時の89,208人から82,582人と7.4%以上減少している。豊岡市の上限200円バスの取組は、こうした人口減と少子高齢化を背景にして路線バスの利用者も大きく減少したことから実施されたものだ。
社会実験と理念
対象の路線である「神鍋高原線(全但バス神鍋線)」は市単独補助路線である。社会実験は2011年10月から始められ、市の予算説明資料では「現在なくなっている通学時間のダイヤを増便するなど、利便性の向上を図り、バスの利用促進を進める。」と書かれている。この資料の前書きには、「全但バス神鍋線は、利用者の減少が著しく、現行のサービス水準の維持が困難になっている。その対策として、従来の減便や路線休止ではなく、増便などの利便性向上や大幅な運賃低減による利用拡大策を考え、その効果を検証する試験運行を行う。これは、市、運行事業者、地域、三者の協定に基づく、主体的かつ積極的な取組により、地域のバス交通の持続性を高める可能性を探るものである。」と上限200円バスの理念が謳われている。
負の連鎖から正の連鎖へ
さらにその目的が「公共機関であるバスでは、利用者の減少がサービスの低下を招き、このことがさらに利用者を減少させるという『負の連鎖』となっている。そこで、『正の連鎖』への転換を図れるよう利用者増につながる試験運行を行う」ことであると説明されている。
通学定期券利用者が0から40人に
上限200円運賃制により、上限運賃は、680円から200円になり、通学定期も月額24,480円から7,200円となった。率にして70.6%の大幅値下げとなっている。当初の実施期間は、2013年3月までであったが、最近の新聞報道によれば、市は2017年9月まで社会実験を継続する方針を決め、9月定例市議会に提案する予定だという。「利用者は第1期(11年10月~12年9月)が8万7992人、第2期(13年4月~14年3月)が11万1260人と、それぞれ目標の12万1000人に達しなかったが、地区役員らが沿線の約760世帯を全戸訪問してバス利用を呼び掛けたところ、住民の間に路線維持の意識が高まった。11年2月にゼロだった高校通学の定期券利用者は今年5月には40人に増えた。」という。
利用拡大策で未来への資産を
私は、豊岡市の上限200円バスの取組が成功することを願っている。運賃も含めた利用者の利便性の向上を高めて利用者を増やそうと行政と事業者、そして住民が一体となって推進しているこの取組は、箱モノとは異なる、新たな「街づくり」だと思う。正直、箱モノづくりの波及効果は限定的であり、ともすれば利害関係の調整の産物に過ぎず、利用されなければ、将来の負の遺産となるだけだ。豊岡市や京丹後市の取組は、地域全体に正の恩恵をもたらすものであり、未来への資産となる「街づくり」だと信じる。「人」、「モノ」、「カネ」という資源の移動と活性化につながる事業の未来に期待したい。そして、人口減と少子高齢化に対する施策の事例として、他の地域を先導するような街づくりを進めて欲しい。
もう一つの取組
ところで、上限200円バスの取組は、大阪の河内長野市でも行われている。対象は、路線バス千代田線(河内長野駅から木戸東町)だ。赤字路線の単なる赤字補填は、事業者の経営努力を放棄させるものであり、今後の人口減と少子高齢化によりますます自治体の財源不足が深刻化することが予想され、結局、公共交通機関の縮小と廃止に向けた負の連鎖が加速されるだけのように思う。
公共交通機関だけでなく、人口減と少子高齢化により自動車の保有台数が減少するのは必死であり、車を持たない若者の増加と車を運転できない高齢者の増加により人の移動が困難な交通弱者社会の到来も予想される。そして、こうした社会では、交通利便性のよい都心に人が集中し、ますます地方の人口減少と少子高齢化に拍車をかけることになるだろう。もう先送りする先もなくなりつつあることに私たちも目覚め、真剣に行動するべきだ。先送りを続ける政治家には、私たちが、引導を渡すべきだろう。